とあるスーパーにて

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 朱美は、典子と直接の面識はほとんどない。会話したのも一度だけ。初めてこのスーパーに来たときに、商品がどこにあるか訊くふりをして声をかけたときだけだ。典子は朱美の名前すら知らないだろう。  では何故朱美が、典子のことを知っているのかという答えは、典子の夫にある。  典子の夫――孝一は、朱美の高校の同級生である。当時は他の友達も一緒に、よく連んで遊んでいた。  朱美は孝一のことが、密かに好きだった。後で本人から聞いた話だが、孝一も朱美に惹かれていたらしい。  卒業してからは、ほぼ音信不通だったが、半年前仕事で偶然再会した。  お互い結婚しているのは知っていたが、忘れていた恋心が再燃してしまったのだろうか。  ふたりが関係を持ったのは、それからほどなくしてのことだった。  それから今も、不倫関係は続いている。  典子がこのスーパーでパートをしていることは、孝一から聞いた。  初めは、奥さんの顔を見てみたかっただけだった。ちょっとした好奇心。  典子の姿を見ると、何故かイライラするけれど、優越感も感じられる。それがクセになった。  不倫相手の奥さんに近づくなんて、リスキーなのはわかっているけれど。  でもあの女は何も気づいていないんだわ。
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