一体目 それが彼女だ

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 楽しそうに笑っていた。  死が迫ってきているというのに、本当に楽しそうに童女のように彼女は笑っていた。  風を切り裂くような音が近くに炸裂し、爆発していく。  たまに石つぶてが体を襲っているが、少し痛いだけ……  楽しい。  気分の高揚が、さらに彼女の知覚を広げていく。  血の臭いが充満する、ここはまさに戦場…… 「あはっ、あははははははっ!」  その様子に、熊男が顔を大きくしかめていた。 「いかれやろうが……なんなんだてめぇ」 「あはっ、何言ってんのさ。こんな世界なんだよ? 正常なのが異常なのさ。あんたも、あたしも、ベルヌも普通じゃないから、ここにいるんだ! だったら、楽しもうよ。今このときが喜劇の舞台さ!」  無垢な笑みだ。  純粋に彼女は今を楽しんでいた。  暗闇で生きる彼女にとって、生を実感出来る瞬間は何事に代えがたい快楽だった。  次の瞬間……  甲高い金属音とともに、熊男の体がよろめいた。
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