一体目 それが彼女だ

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 息を潜めていた。  空に視線をやれば満天の星空がそこある。  しかし、彼女はそのようなことはしない。  するべき時でもないし、出来るとしてもすることはない。  彼女の周りに、同じように息を潜め腹ばいになっている男たちが三人いた。  そのうち一人だけ、少し息が荒い。  静寂の中、その者の息づかいだけが無駄に響いている。  うるさいと思うが、緊張しているのだろう、変に刺激するだけ無駄というものだ。 「頃合いだと思うけど?」  沈黙を破り、彼女は問いかけた。  それに反応するように隣の男が目配せをした。  狙うは眼下……    二十メートルほど下に明かりが見える。  彼らがいるのは断崖絶壁の谷間だった。  時より大きな笑い声が聞こえてくる。それも下品極まりない笑い方だ。  ここは人里離れた山の中だった。  深い森に囲まれ、人間を寄せ付けない。ただの獣ならいいが、魔獣や凶暴な亜人種なども生息している地域でもある。  そんなところでキャンプをしている者たち。  もちろん、真っ当な奴らではない。
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