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その頃、結衣が結婚した、という話がどこからともなく舞い込んで来た。
社内で大恋愛だったと聞いた。
結婚式もそれはそれは盛大で華やかなものだったらしい。
結婚式の写真をフェイスブックか何かで見たが、結衣の花嫁姿は輝いていた。
京香は、イケメンのご主人の隣りで幸福そうに笑っている結衣の笑顔に、ぼんやり見入ってしまったのを今でもはっきりと憶えている。
京香の母は、「あんたは誰かいい人いないの?」と聞いてきたが、京香が答えるまでもなく、「……いるわけないか」と呟いて、首を振った。
さらに2年半が経ち、結衣は大きなお腹をさすりながら里帰りをした。
何しろ初めての孫。
結衣の母の喜びようは、五十嵐家にもすぐに伝わった。
母娘二人仲良く薬局でおむつなどを買っているところに出くわした京香の母は、羨むのも怒るのも通り越して、京香にため息をついてみせた。
「ちょっと成績がいいからってねぇ……調子にのって東大なんかに行かせたのは間違いだったのかしら。
あちらさんはもうお孫さんだものねぇ……」
二人が大学に進学して以来、事あるごとに何となーくディスられ続けられていた京香の母は、ここにきてトドメを刺されたのだった。
それが、6ヶ月の赤ちゃんを抱えての結衣の出戻りである。
「何があったのかしらね……」
などと電話口の向こうで呟く京香の母の声は好奇心に満ちていた。
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