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それは母親のエゴでというものではなかろうか?
「そうよね……話がうますぎると思ったもの」
沈んだ声を漏らす母に、秋山のことを話してしまおうか、と一瞬思った京香だったが、必要以上に母を刺激しそうで、結局は何も言えなかった。
もう少し落ち着いてからの方がいい。
もう少しゆっくりしていけば言いじゃない、という母の声を振り切って、京香は、お昼ご飯を食べると、そそくさと実家を後にした。
なんだかいたたまれない。
母に不快感を感じる一方で、期待に添えられないできの悪い娘で申し訳ない、という気持ちもあった。
いくら東大を出て一流企業に勤めたところで、結婚して子どもを産まなければ、結局のところ世間的には負け組の女というレッテルを貼られるのである。
何のために努力してここまで来たのだろう。
早く結婚しろ、とせっつかれるためだったのか?
実家を後にしても出てくるのはため息ばかりだ。
このままマンションに戻って良太と顔を合わせるのも億劫だ。
秋山のことを突っ込まれるのも鬱陶しいし、良太が中嶋さんとかいうどうでもいい女のことを嬉しそうに話すのを聞くのも癪だった。
京香はあてどなくその辺を一人でぶらぶらしていたが、不意に思いついて秋山に連絡を取った。
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