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「……何でそんなところに」
飛ばされなきゃいけないんですか、という言葉はかろうじて飲み込むことができた。
ワナワナと手が震える。
総務部備品課なんて……リストラ候補者が飛ばされる社の吹き溜まりと言う噂の部署ではないか。
「いやね、備品課の方で急にバタバタと人が辞めてしまっていて、人が足りなくてね。
コーポレート部門から優秀な人物を回してくれ、って言われてさ……」
背中を丸めて説明する磯貝部長の声は囁くように小さかった。
何を言っておるのだ、磯貝部長は。
人が足りない……って、備品課なんて人が足りなくたってどうってことない部署ではないか。
むしろ、これ幸いとばかりに派遣に切り替えてしまえば事足りるようなところだ。
そんな部署に何で京香が?
異動の時期でもないのに。
「とにかく決まったことだから。早速準備してくれ」
それだけ言うと、磯貝部長はそそくさと立ち上がった。
部屋を出て行く時についでのように付け足した。
「あ、必要な引き継ぎは秋山くんにしておいてくれればいいから。
秋山くんだったら、うまいこと回してくれるだろうから」
……って、後任も来ないっていうことなんだろうか。
それに、秋山は同じ財管部で仕事も大いに関係があるとはいえ、課が違う。
確かに秋山が京香の業務を一番よく把握しているには違いないのだが、秋山に引き継ぐというのも何となく腑に落ちない。
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