異変

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課に戻ると、皆が息を潜めて京香の様子を伺っているのがわかる。突き刺さるような視線を感じて、京香は逃げるように机周りの私物の整理を始めた。 秋山が困ったような顔で近づいてくる。 京香の顔はさっと強ばった。 「磯貝部長には秋山補佐に引き継ぐようにと言われましたので」 「特に、何か聞いておいた方がいいことはある?」 なんとなくよそよそしく感じられるのは、秋山も気まずいからだろうか。 京香もなるべく感情を表に出さないように事務的にしゃべった。 「水曜会議関連の数字は来週早々に上がってきますし、それを見て決算資料をまとめていけばいいだけなので……  その他の作りかけの資料は、今日中にまとめて秋山補佐のファイルに送りますよ。  それから……」 「それから?」 「秋山補佐も気づかれてるとは思いますが、エレクトロニクスの数字がなーんか微妙なんですよ。  先日お話しましたように、手元の現金が結構厳しいので、留意しておいた方がいいかと思います。  売り上げや収益は問題なさそうなんで、何ででしょうかね? 売り掛けの回収が順調じゃないのかもしれないんですけど、現場でトラブルでもあったんでしょうか。 何か事情があるなら、事業部長に直接聞いた方がいいかもしれませんね。  桑原代理もよくわかってないかもしれないんで、注意して見ておいた方がいいかもしれません。売り上げと利益の算出方法が間違ってるのかな……、そもそもの仕分けがおかしいとか。  そんなはずもないと思うんですが。  っていうか、コンピュータ処理もかなりあるし、うっかり間違えるなんて返って難しいと思うんですけどね」
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