異変

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それにしても、どうして京香が異動にならなくてはいけないのだろう。 異動の時期でもない、突然の辞令。異動先はリストラ候補が飛ばされるという噂の部署。 懲罰人事ということは一目瞭然だ。 なぜ? こんな辞令であってみれば、明らかな失点があるはずである。 しかし、振り返ってみても、京香には全く心当たりがなかった。それどころか、秋山には、「しっかり数字を見てくれてるし、鋭い分析で頼もしい」などと常日頃言われていたのである。 その日は一日中悶々と過ごすことになり、退社後、秋山から事情を聞けるだろう、というのだけが、混乱した京香の唯一の慰めであった。 京香が秋山と待ち合わせをしたのは、会社から少し離れた場所、秋山の地元に近いターミナルステーションにある、築地直送が自慢の刺身が美味しい居酒屋だ。 会社の人と顔を合わせるのが煩わしい時に飲みに行く店だ、と秋山が何回か京香を連れて行ってくれたことがある。 初めて連れて行ってくれた時に、秋山が少し照れたような顔で 「会社の人を連れてきたのは君が初めてだよ。京香も他のヤツは連れてこないでね、会社のヤツがここに入り浸ったらイヤだから」 と言った居酒屋である。
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