異変

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そりゃあ、仕事だからいつもやりたいことがやれるわけではないのはわかる。 それに、サラリーマンである以上、会社の都合で不本意な部署に行かされることだってあるかもしれない。 だけど、理由も説明されず、唯々諾々と従って、これも「いい」経験、と自分に言い聞かせるのが正しいことだとは、どうしても思えない。 こんなくだらない我慢比べが「良い経験」なんておかしいのではないか? 先のキャリアにつながるわけではないのは明らかなのに。むしろ、体よくクビにするための措置にしか過ぎない。 どうして有り難がって「良い経験」なんて言わなくてはならないのか。 なのに、秋山でさえそんな風に言うのか…… その夜ベッドにもぐっても京香の気が晴れることはなかった。 ひょっとして。 ものっすごい勘違い? 異次元の世界に行ってしまった? それとも、長い長い悪夢? そんな儚い幻想を抱きながら目を覚ました次の朝。 食卓に出てきたのは、塩鮭のお茶漬けだった。 香ばしく焼かれた鮭。それに淹れたてのお茶。 またまた完璧な朝ごはんだ。 ……悪夢はいつまで続くんだろう。 良太はくせ毛のぴょんぴょんはねる髪の毛を手でおさえながら得意げに話しかけた。 「京香さん。昨日も飲んできただろ?  中嶋さんが、飲んできた次の日は、雑炊かお茶漬けがいい、ってアドバイスしてくれたからさー。  雑炊はまだ作れないから、昨日のご飯でお茶漬けにしたんだー!  ホント、中嶋さんて親切なんだよー、ボクがいくら一人でできる、って言っても心配してあれこれ手伝ってくれるんだから」
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