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結衣は下を向いて首を横に振った。
不意に部屋の中に沈黙が訪れる。何とも気まずい、イヤーな空気だった。
「……面接って?」
何とも間抜けな質問だ。
結衣はフーーーーっと太い息を吐いてから吐き捨てるように言った。
刺々しい口調。
「就職のね。今朝急に連絡が来てさ、いきなり来てくれ、って……
赤ちゃんがいるので急には無理です、なんて言えないじゃない」
そんな事情だったとは……
「……で? どんな仕事だったわけ?」
京香が思わず聞くと、結衣はポツリポツリと話始めた。
「小さな貿易会社が事務員を募集しててね。一応前は大手の商社にいたわけだしさ、ちょっとは有利かなーなんて思ってたんだけどね……
行ってみれば、他に大学卒業したての若い女がいてそっちに決まっちゃったわけよ」
「そんな。商社だったら、貿易事務なんかも多少は詳しいでしょ? 結衣の方がキャリアがあるじゃないのよ」
「貿易会社っていってもね、募集してるのはただの事務だし、年のいったオバサンなんて雇いたくないってわけよ」
「オバサン……って、まだ28だよ!?」
結衣に腹を立てていたことも忘れて、京香は思わず叫んだ。
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