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秋山と待ち合わせたのは、先日来た居酒屋である。
京香が店に着いた時には、秋山の前にあるジョッキは半分ほど空になっていた。
「珍しいですね、こんなに早く来てるなんて。 忙しいんじゃないですか?」
「あ、うん、まあ。 ……それより、何、飲む?」
話をそらすように京香を促した。
「そうですねー……」
京香が壁にかかったメニューを眺めていると秋山は手元にあるおしぼりを触りだした。
秋山はそわそわと落ち着かない。
「拓人さん、どうかしましたか?」
「あ、いや……あの、新しい仕事はどう?」
心の準備もないままにいきなり単刀直入に聞かれて京香はドキリとした。
「あー……ぼちぼちですかねぇ、まだわからないですけど」
「そうか。 京香は優秀だし、どこでもやっていけるだろうけど」
ーーいや、その、そういうレベルじゃないんですけど……
京香の頼んだジョッキが届いた。
「じゃ、新しい部署に乾杯?」
秋山が明るい声を出した。京香のもやもやは募る。
「いや、あの! ……実は最悪なんです、今の部署」
「え?」
京香は思わず、秋山に課の事情を事細かに説明していた。
話していくうちに、京香は情けなさと悔しさで思わず涙をこぼしてしまった。
だんだんと感極まる。
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