異変

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「酷すぎます……私、これでも精一杯やってきたつもりなんです」 最後の方は泣崩れんばかりだ。 秋山は京香の肩をそっと抱き寄せて、その指で頬に伝わる涙を拭う。 「……それは、部長だって、僕だってみんなわかってるよ」 「そうですか? だったら……何でこんな異動でたんですか?  やっぱりちょっとおかしいくないですか?」 「タイミングが悪かったとしか言えないけど……」 「……ホ、ホントに何かなかったんですか、……私の異動?」 「ないよ、もちろん何もないさ。  あるわけないじゃないか。……でも」 秋山は何かを決意したかのように、真剣な顔で京香の顔を覗き込んだ。 「もし……そんなに嫌だったら、いっそ会社を辞めて、オレのところに就職しないか?」 「え?」 ーーえ?    えーーーーーー!? 「いや、……その、京香さえ、良ければ、ってことなんだけどさ……」 秋山は照れたように頭をかく。 「ってか、実はもう、こんなものも買っちゃったんだけど」 内ポケットから出したのはまさかの紺色のベルベットの小さな小箱。 中に入っていたのはキラリと光るダイヤモンドの指輪。 シンプルな台座に一粒のダイヤ。 京香は、吸い寄せられるように指輪を見つめる。 キラキラと神々しいばかりの輝きを放つダイヤから目をそらすことが出来なかった。 「……これ?」 「なんか、ヘンなタイミングになっちゃってアレなんだけど、……ずっと考えてたんだ。  オレには君しかいないな、って」 「……」 「だから結婚してください!」 ーーちょ、ちょっと待て!   結婚?      け……けっこーん!?
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