572人が本棚に入れています
本棚に追加
内田氏の顔がチラチラと頭に浮かぶ。
結婚して退職する、なんて言ったら、あのイヤミな内田氏はどんな顔をするだろう、と想像するだけで溜飲が下がる思いだ。
ーーこうなったら、一刻も早く会社を辞めてやる!
溜まりに溜まっている有給を全部消化して、その間に結婚式の準備をすればいいし。
それから渡航準備もある。
アレ? 拓人さん、どこに赴任になるか、言ってなかったなー……
もう、英語圏じゃないかもしれないから、ちゃんと言ってくれなきゃ困るじゃない! 語学の勉強もしなきゃいけないしね。
もうあんな部署で茶など汲まずに済むかと思うと、それだけでせいせいする。
結婚してしまえば、仕事を辞めてしまっても何とかなるだろう。何と言っても相手が秋山なら何の心配もない。
結婚すれば人生の悩みが全て解決しそうだ。
あふれ出る笑みを抑えることができなくて、マンションのドアを開けるなり、京香は思わず叫んだ。
「残念でしたー!! ついに結婚することになりましたよー、良太!!」
ーー早く出て行ってちょうだいねっっ
って、続けようとして。
良太はもういないんだ、ということを思い出した。
家の中は真っ暗だ。玄関の明かりをつける。
「追い出す手間が省けてちょうど良かったよ」
その呟きにも返事がなかった。
最初のコメントを投稿しよう!