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頭の中で十回以上は繰り返しただろうか。
ようやく意味がわかると、京香はその女の人に訊き返した。
「引っ越しされた? 昨日ですか?」
「は、はい」
「理由は? 何か言ってました? 転勤になった、とか?」
「いえ……」
「どこに引っ越すかは聞かれました?」
「いえ、それがもう、そんな事情を聞く間もないぐらい大慌てで荷物をまとめてましたから。
よほど急に引っ越しを決めたんじゃないですか?」
その女の人も、京香の矢継ぎ早の質問に当惑するばかりで、何も知らないようだった。
ーー何で引っ越し? 急に? 私に黙って?
すぐに海外に赴任する予定なのに、何で今引っ越しなんかする必要があるんだろう?
わけがわからない。
事態が呑み込めないまま京香は仕方なく家に戻った。
朝になってもやはり秋山からの連絡は何もなかった。
しょうがない。
こうなったら、会社で秋山を待ち伏せするしかない……
京香は意を決して、会社のビルに向かった向かった。
入り口の影に隠れて出勤してくる人たちを眺める。
できれば財菅部や備品課の人たちとは顔を合わせたくなかった。
こっそりと隠れていると、秋山が出社してくるのが見えた。
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