572人が本棚に入れています
本棚に追加
今まで通り、同じような時間に爽やかな姿で颯爽と登場する。
どこからどう見ても、穏やかで落ち着いた、京香の知っている秋山その人であった。
……
…………
何一つ変わったところなどなさそうで、連絡の一つも寄越さず、いきなり引っ越ししたようには全く見えない。
京香はビルの中に入る直前、いきなり秋山の前に立ちはだかった。
「……拓人さん」
京香が声をかけると、拓人は驚いたように京香を見返したが、それも一瞬だけのことで、その後は何事もなかったかのように京香を無視して歩き続けた。
「拓人さん?」
我知らず大きな声になってしまう。
周りにいた何人かの人たちが京香たちの方を振り向いた。
恥ずかしい……
誰か、財管部の人が京香に気づくかもしれない、
そんなことが頭をよぎったが、気にしている場合ではない。
ここで、秋山と話ができなかったら、また混乱して途方にくれて一日中過ごさなくてはならない。
京香は黙ってその場を立ち去ろうとする秋山の腕をぐっと掴んだ。
「ちょっと、話があるんですけど、秋山補佐」
「話? 話なんてオレにはないんだけど?」
「は!?」
「痛いから、離してくれないかな、その手」
最初のコメントを投稿しよう!