異変

53/54
前へ
/401ページ
次へ
今まで通り、同じような時間に爽やかな姿で颯爽と登場する。 どこからどう見ても、穏やかで落ち着いた、京香の知っている秋山その人であった。 …… ………… 何一つ変わったところなどなさそうで、連絡の一つも寄越さず、いきなり引っ越ししたようには全く見えない。 京香はビルの中に入る直前、いきなり秋山の前に立ちはだかった。 「……拓人さん」 京香が声をかけると、拓人は驚いたように京香を見返したが、それも一瞬だけのことで、その後は何事もなかったかのように京香を無視して歩き続けた。 「拓人さん?」 我知らず大きな声になってしまう。 周りにいた何人かの人たちが京香たちの方を振り向いた。 恥ずかしい…… 誰か、財管部の人が京香に気づくかもしれない、 そんなことが頭をよぎったが、気にしている場合ではない。 ここで、秋山と話ができなかったら、また混乱して途方にくれて一日中過ごさなくてはならない。 京香は黙ってその場を立ち去ろうとする秋山の腕をぐっと掴んだ。 「ちょっと、話があるんですけど、秋山補佐」 「話? 話なんてオレにはないんだけど?」 「は!?」 「痛いから、離してくれないかな、その手」
/401ページ

最初のコメントを投稿しよう!

572人が本棚に入れています
本棚に追加