572人が本棚に入れています
本棚に追加
何だろう、この安心感。
「大丈夫だよ。京香さんがツラくなくなるまでこうしてるから」
「……」
京香はまた泣き出した。涙と鼻水が止まらない。
良太は京香をしっかり抱きしめて顔を京香の頭に埋めた。
「……大丈夫だよ、大丈夫だから」
小さな声で魔法のように何回も囁く。
手はやっぱりゆっくりと京香の背中をさすっていてくれた。
どのくらいそうしていただろうか……
涙は枯れ果てて、今はただ凪いだ海に漂うような穏やかな気持ちがあるばかりだ。
いきなりルルルと良太のケータイのアラームが鳴った。
「あ! ごめん。行かなくちゃ! ……いい? 大丈夫?」
「うん。平気」
するっと返事をしていた。
それを聞くと良太は来た時と同じようにバタバタと出て行った。
また部屋に静寂が訪れる。
何だったんだろう……今の。
良太、ホントにいたの?
もしかして、夢? 幻??
会いたくて良太の幻想を見てしまったとか?
ふとそんなことを思いついて京香は慌てて首を振った。
良太に会いたいなんてそんなこと、思うはず、ない。
あんな使えないグータラな男。
頭から良太のことを追い出そうと京香は立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!