言うは易し、と言うけれど

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「しかも、ふらっと来たと思ったら、ふらっといなくなって!  どうしていいかわからないじゃないのよ!!  しかも、こんな……みっともなく泣いてる時に突然来るし!   空気読めよ! 迷惑なのよー!!」 何を言っているのか、何を言いたいのか、自分でもわからなかった。 「し、心臓の音、聞かせなさいよッッ!」 京香は良太のシャツを両手で掴んで、自分の顔を良太の胸に押し付けた。 トクン、トクン、トクン…… 規則正しくリズムを刻む音が京香の耳に優しく届く。 京香は良太の服をぎゅっと握りしめたまま、良太にしがみつく。 顔を見られたくなかった。 良太は京香をしっかりと抱きしめてくれた……指先で京香の髪をそっとなぞる。 不思議な安心感。 「か、勝手に出て行かないでよ。……子犬の癖に。  ふらふら外に出て行って野良犬になったらどうすんのよ! ……心配するじゃない」 嘘だ。 犬が出て行って、淋しくなったのは飼い主の方だ。 自分を待ってくれる人を失って、途方にくれたのは京香だった。 「……じゃあ、許してくれるの? また一緒にいてもいいの?」 「ま、まあ、行くとこがないなら……しょうがないんじゃない」
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