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だけど……
結衣だって、母一人、子一人、なんとか仕事を見つけてやっていこうと必死なのだろう。
だけど、そう簡単に仕事は見つからなくて。
子供を抱えて、きちんと育てて行くだけの収入を得る仕事につくのがどれほど大変か、ということは京香にも身に沁みていた。
「……一万」
「は?」
「一万払ってくれるなら、私が見ててあげる、明日ヒマだから」
「ばっ、えっ、一万なんて払えるわけ、ないでしょうが、大体アタシは今、無職なんだから」
「悪いけど、私も無職だし。こんなこと、タダじゃできない。
とにかく、一万払って。それがイヤなら他を当たって。
どうするの?」
「……わかった」
かなり渋々だったが、結衣は頷く。
どうしても預けたいのは確かなようだった。
「言っとくけど、前払いよ。
来る時に持ってこなかったら、アンタのうちの前に杏を置きに行くから」
「アンタって……どこまでも狡猾で性格悪いね!
もう少し、可愛げのある態度、とれないの? そんなんだから男が見つからないのよ」
なんでだろうか。
今までだったら、むかっときてそのまま電話を切ってしまうのに、今回はそれほど腹が立たない。
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