華麗なる復讐

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「笑ってる場合じゃないですよ! アタシ、本気で困ってるんですから」 エリカは焼酎をがぶ飲みした。 財菅部の連中にはやっぱり見せられない、と京香は思う。 「そんな、倒産しかかってる会社に勤めてるような男なのに、どこが良かったの?  顔? 身長が高いとか?」 「それが……ゲなんです」 「え?」 蚊の泣くような声だったので、思わず訊き返した。 「だから! ハゲなんです」 「……!!」 ハゲ!? しかもハゲ。 その上ハゲ!! 意外だ。とにかく意外すぎる。 友達に自慢できるイケメンで高収入の男を捕まえて、優雅な専業主婦をすることに全神経を注いでいたエリカが、潰れかけた下請けに勤めるハゲに恋するなんて! 恋愛ほど不可思議なものはない、と京香はしみじみとした感慨に襲われていた。 「どこがいいのよ、そんな男の」 エリカはほおっと夢見るような目つきで話し出した。 「アタシ、可愛いとか言われるのは慣れてるんですけど、彼はちょっと違ったんです。したたかで気高い人ですね、なんて、にこにこして言うの。ハゲてるくせに」 京香は、まだ見もしないそのエリカのカレシ(候補)に絶大なる好感と信頼を寄せた。
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