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あ、余計なことを言ってしまった! と思って顔を青くしたのだが、良太は相変わらずにこにこと笑った。
「それもそうだねぇ。でも、今は少しは出来るようになったでしょ?」
「少しね。すこーしね」
精一杯虚勢を張った答えだった。
どこか卑屈だ。
素直に褒めてあげられない自分に少々自己嫌悪を感じる。
それなのに、やっぱり良太はにこにことした屈託のない笑顔を崩さなかった。
「良かったーー。 少しでも京香さんがそう思ってくれてて」
京香はこの無邪気さにどれだけ救われていることだろう。
「……じゃ、お茶淹れるね」
「やったー! 京香さん、ありがとう」
「……」
「ありがとう」ってこんなに嬉しい言葉だったんだ。
良太と一緒にいると、見えてくる風景が今までと違ったものになる。
京香は胸がいっぱいだった。
***
コンビニの仕事は良太に合ったのだろうか。
人手不足もあったようで、良太はそれからもシフトをガンガンと入れてせっせと働きに出ていた。
ここは、あくまで京香が借りているマンションだし、良太のバイト代では二人の生活費がまかなえるはずもなく、京香の失業手当やら貯金やらも合わせて何とかやっている状態だったから、別に、引け目なんて感じる必要はない。
それでも、不採用通知が重なるにつれて、良太でさえ(フリーターとはいえ)稼いでるのに、自分がお荷物になるなんて……と京香は何だか卑屈な気持ちになっていた。
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