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そういえば、ケイコと話したのは無理やりに結婚の報告をしたのが最後である。
まだ、結婚がダメになったこととか、良太が戻ってきたこととかは打ち明けていない。あれから目まぐるしく状況が変わり、ゆっくりと話す暇もなく、今の電話となったわけである。
特に、良太のことは……
会わせる、って約束したまま、良太が出て行ってそれっきりだ。
あんなに乗り気だったんだから、京香のところに戻ってきたなら、また会わせてくれ、って言うに違いない。
良太はどうするのだろうか?
やっぱり、ケイコのところに転がりこむんだろうか?
何てったって、ケイコには職がある。
それも、第一種国家公務員。
泣く子も黙る財務省のキャリアだ。京香のように失業に怯える必要のない安定した社会的地位の高い職。
……
…………
結局、京香は、電話では良太のことに触れずじまいだった。
電話を切ってから、すぐに会うのだから、その時にじっくり報告すればいい……なんて心の中で軽く言い訳をする。
「京香さーん、これ、どうしたらいいの?」
振り返ると、良太は、お茶でびしょびしょになったふきんを手にしている。
ふきんから水滴がぽたぽた溢れていた。
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