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「それ、水曜会議の資料の原稿ですよね?
アタシ、手が空いているんで仕上げてコピーしましょうか?」
エリカはさりげなく秋山のところに行き、声をかける。
もちろん、秋山が、会議資料の原稿を手に課長と打ち合わせをして、原稿の直しを入れる、というところをきっちりと見計らっての発言だ。
「え、大丈夫だよ? 最後の訂正するだけだから」
「そうですか?
先ほどエレクトロニクス事業部の桑原代理から至急ご相談したいことがあるので、すぐに連絡をもらいたい、っていうような伝言を受けていたましたので、秋山補佐、お忙しいんじゃないですか?」
エリカの言葉に秋山は顔色を変えた。
秋山は、すぐに桑原に電話をかける。
二人で話す口調もなにやら深刻で、秋山は電話口で低い声で何か話をしていたかと思うと、すぐに電話を切った。
「吉岡くん、やっぱり、この資料の訂正とコピーをお願いできるだろうか。
至急、打ち合わせしなければならない案件が出てきたんで、僕はちょっと役員室に行ってくるから」
「わっかりました」
エリカは明るく答えると、早速データをパソコンに送ってもらった。
***
「それだけじゃ、資料室になんか入れないでしょ?」
京香が聞くと、エリカはふふふと笑った。
「資料を作成する時に、数字をちょっといじったんですよー。
明らかにタイプミスだとわかるような」
「なに、それー」
「何かの売り上げだったかな? 436百万円のところを436円って打ち直して。
そこだけこっそりコピーして、秋山さんの資料に紛れ込ませたの」
エリカが得意そうな顔をする。
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