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大体の世の男は、可愛い女の子の手作り弁当に夢を見ている。
仮にも独身男性なら、まず、断ることは出来ないだろうーーというのが、影の参謀本長、エリカのカレシ(推定)の見立てだった。
全身全霊で玉の輿を狙っていたエリカ。
「男の胃袋をつかめ」というセオリーにももちろん忠実。
料理の腕前はなかなかのものであった。
秋山にさりげなく弁当を持っていく。
「五十嵐主任がいなくなっちゃってから、仕事が増えて大変なんじゃないですか?
最近元気ないですよーー、秋山補佐」
「吉岡がそんな風に気遣ってくれるなんて、オレのことなんか眼中にない、って感じだったのに」
本心なのかお世辞なのか、嬉しそうな顔をする。
アカデミー賞ばりの演技をする秋山に騙されてはいけない、と警戒しつつ、エリカはしみじみとした声で言った。
「それは……眼中になかったのは秋山さんの方じゃないですか? いつも五十嵐主任のことばかりで。
アタシも、五十嵐主任のことは尊敬してましたし、だから二人を祝福しなくちゃって思ってたんですけど……いくら異動になったからって秋山さんのことまで逆恨みみたいに別れるなんてひどいじゃないですか?」
「あんなことになったんだから、オレと顔を合わせたくないのもわかるよ。
五十嵐はプライドだけは高いから」
「東大出てますしね!」
「東大出てるからって鼻にかけてたしなぁ。女のコだったら、やっぱり吉岡みたいに可愛くてニコニコ笑ってる方がいい、ってつくづく思ったよ」
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