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緊張のあまり手が震えてUSBメモリを床に落としてしまったのだ。
秋山はニッコリ笑った。
「うん、ごめんね。
電話が終わって戻る途中で、トイレから出てきた人がぶつかってきちゃってさ…… 水、かけられちゃって。
拭いたり謝られたりしてるうちに時間食っちゃって。
すっかり遅くなっちゃって。……申し訳ない」
「いえ」
すまして答えるものの、USBメモリが気になって仕方がない。
エリカはエイヤッとケータイを床に滑らせた。
「あ……」
秋山が立って拾おうとするより一瞬早く、エリカが降りてケータイを拾った。
もちろん、USBメモリも一緒に。
すぐにエリカのケータイが鳴って、急に実家の母からの呼び出しがかかった……というワケだった。
そこから真っ直ぐに京香の家までタクシーをすっとばしてきたのだった。
***
一通り話を聞いて、京香はエリカの綿密さと大胆さに驚くやら感心するやら、である。
さすが、猫かぶりのエリカ。
いや、名女優とでも言うべきか。
「にしても、よくパスワードがわかったわねぇー」
「実は、コーヒーカップを取りに会議室に戻った時に、最後、22って数字を入れたのはわかったんですよ。あ、もちろん、わざとですけど。
……で、秋山といろんな話をしているうちに、チェスが好きだ、ということがわかりまして」
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