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すっかり酔いはさめている。
エリカが帰ってからも、京香はキッチンのテーブルでデータをずっと調べていた。
詳細に見ていけばいくほど愕然とする。
よくもまあごまかしきれたもんだ、とある意味感心せざるをえないほど、ひどい改ざんであった。
ーーこんな粉飾……知ったところでどうすれば良いのだろう。
京香はどことなくカビくさい臭いのする、湿った地下の備品課のことを思い出す。
主のように君臨していた内田氏。
仕事の出来る部署に異動になることはほぼなく、周りから白い目で見られながらも備品課に居座っていた。
年齢は50近くというところだろうか。
住宅ローンを抱えて子どもの進学だってあるのかもしれない。
恐らく一番お金のかかる時で、あんな仕打ちを受けながらも会社を辞めることができないのだ。
会社から必要とされていない、とわかっているにもかかわらずしがみつくしかない内田氏。
辞めてしまえば、GECのような体裁の良い、待遇の良い大企業に再就職することなど決して叶わぬ、ということは、誰よりも本人が一番自覚しているのであろう。
それは、内田氏よりもうんと若くてまだまだ先のありそうな京香でさえ、再就職することの難しさを実感しているのだから、ましてや賃金の高い内田氏が相応の職を見つけるなど不可能だ。
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