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そんな屈折した思いを抱えているせいだろうか。
日頃のうっぷんを晴らすように、京香にお茶汲みのような雑用をやらせて悦に入っていた内田氏。
もちろん内田氏だけの話ではない。
このファイルが表に出たら、秋山やその他、GECに勤める大多数の社員の人生を狂わせてしまうのではないかと思うと、その恐ろしさに京香はへたり込んでしまった。
夜中の2時すぎだというのに、すっかり目が冴えてしまって全然眠れそうもない。
もしも。
もしも……
その先を想像して、恐怖に体が震える。
ふとリビングに目をやると、良太が、カウチをずらしてテレビ台との間に布団をしいてちゃっかり眠っている。
吸い寄せられるように良太の隣に行った。
安らかな顔……
京香は良太の髪の毛を指で梳いた。柔らかい髪の毛が指にまとわりつく。
しみじみとその寝顔を見ていると、不思議な安心感を感じた。
結局どうするかは自分で決断するしかない。
ーー大丈夫……私は、大丈夫だ。
京香はパソコンに向かって猛烈に何か書き込み始めた。
夢中になっていると、そのまま夜が明けてきた。
外が明るい。
鳥のさえずりも聞こえてきた。
「これでよし……」
送信ボタンを押すときに、さすがに手が震えた。
かすかにカチリと音がして、レターのアイコンに羽が生えて飛んでいくのが画面に見えた。
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