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「……とにかく出て行って!」
京香が低い声で唸る。
「えー……ボク、行くとこないんだよね……」
肩をすぼめて首を縮める。上目遣いで京香をちろりと見上げた。
「駅前にネカフェも慢喫もあるし」
「お金ないもん」
「……」
「それに、ボクたち、夫婦になるんでしょ。だったら一緒に住めば問題ないじゃん」
「夫婦にならないし。問題大アリだし」
「やだなー、さっき、ねえちゃんに啖呵切ってたじゃん。
誰でもいいっていうから、ボクが結婚してあげるって言ってるじゃない」
「あげる……ね」
京香はため息をついた。ったく、微妙に上から目線なところは、姉弟そっくりだ。
いっそ、一緒に結衣の家に言って、謝って土下座でもしてくるか……と一瞬思ったものの、あんなヤツに謝るなんてとんでもない。
それでなくても怒濤の一日で、夜もかなり更けて来た。
疲れ切った優香はいろいろ考えることすら面倒くさくなってきた。
ぼーっとしていると、良太がそうっと茶色の紙を差し出す。良太のところだけ記入された婚姻届だった。
「明日、一緒に区役所に行こう?」
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