出戻り女の癇癪

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それを聞いたときも、京香の母はプリプリと怒っていた。 「……ったく、同い年の娘がいるのに、よくあんなセリフが言えるもんだと感心するわ」 その頃、京香は、と言えば、色っぽい話の一つもなく、髪を振り乱して勉強にのめり込んでいたのだから、京香の母が当てつけととったのも無理はない。 京香の母は悔しそうにしていたが、当の京香は、と言えば、大学に入ってから半年ほど経った頃から、自分の置かれた状況をしっかりと理解し、男や結婚をアテにしない人生設計をしていたのであった。 京香は自分のことで忙しかったし、全く交流はなかったので、半ば人ごとのように結衣の話を聞いていたのだった。 それに、大学生活まっただ中の京香にしてみれば、社会人として働く、ということ自体まだまだピンとこなかったし、増して見合いだの結婚だの、というのはまるで別世界の話だった。 しばらく結衣の噂など聞くこともなく、お互い平穏に暮しているうちにさらに月日がたち、京香は大学を卒業し、総合電気メーカー「GEC」に就職した。 「GEC」は、もともとは電化製品のメーカーだったのだが、海外勢の追い上げを受けて利の薄くなったこの分野に加えて、最近では医療器具の開発や、インフラのシステムを提供したり、電力開発に携わったり、と政治が絡むようなプロジェクトを含めた幅広い分野に手をだしている。 グループ傘下の企業も500以上になるかなり大所帯の大手企業だ。 社内は事業部制をとっており、京香は、それぞれの部間を調整、統括するコーポレートセクションの財務管理部に所属していた。
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