0人が本棚に入れています
本棚に追加
ことば
「だいじょうぶ?」
え?
真後ろから、ふいに声をかけられ、ドクンと心臓が跳ねあがる。
若い女の子の心配そうな声だった。
恐る恐る振り向くと、子供がいた。
見た目では、10歳くらい……。たぶん、女の子。
暗くてはっきりと顔が見えない。大きなリュックサックを背負っていて、秋の遠足に行くような格好。冬の夜では寒そうだ。
「なんで死にたいの?」
かわいい声で、ど直球な質問を投げかけてきた。
「え、えーと」
答えに困る。
なんで、「死にたい」と呟いてしまうのだろう?
がんばってきたのに、思い描いていた大人になれなかったから?
誰も、わたしのことを、気にしてくれないから?
30代の後半なのに、まだ結婚できていないから、将来に絶望している?
何も言えずにいると、
「なるほどね」
いつのまにか、女の子が顔を近づけて、わたしの顔を覗きこんでいた。女の子の白い息が、わたしの首すじに届く。
何か分かったのか、大きく頷いた。
「あなた、本当は死にたくないんでしょ?」
違うと、口を開きかけて止めた。
……何も言えない。
女の子をまじまじと見つめると、柔らかな笑みが返ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!