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初対面の子なのに、心の扉を無防備に開けてしまう。
「自分の気持ちを表すのに、ぴったりの言葉を知らないか……、
あるいは、避けてしまっているだけじゃないのかな?
だから、ありふれた……言いやすい言葉を使っちゃうのよ」
優しく、諭すような声。
「いくつか言うわよ。
ぴったりの言葉があると良いけれど……。
わたしは生きたい。
変わりたい。
強くなりたい。
幸せになりたい。
自分を信じたい。
失敗を恐れない。
他人を気にしすぎない。
自分のやりたいことを、やりたい」
女の子が、ゆっくりと一言一言を丁寧に語っていく。
胸の内側が熱くなって、その熱が全身に駆け回る。そして、瞳から零れ落ちた。
「いまのあなたを、大切にしてあげて」
背伸びをして腕をのばすと、ちいさな手で、わたしの頬を優しく撫でた。
「わわっ」
重いリュックのせいか、体勢を崩した少女を、慌てて抱きしめる。
あたたかい。
「ありがと。それじゃ、行くね」
軽い足取りで、女の子が坂道を登っていく。
わたしは、その場から動けなかった。
遠ざかる足音が聞こえる……。
やがて、大きなリュックを背負った女の子は、視界から消えてしまった。
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