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草の養分になってなってやるのも嫌だから、そろそろ帰らないと。
風に起こされるようにふらりと立ち上がると、その風に乗ってきたのか、何か音が聞こえた。ちょうど、私が帰る道の方からだった気がする。
歩いていくと、それがギターの音だとわかる。近づいていくと、歌が聞こえ始める。聞いたことのない曲は、オリジナルなのか、それとも私の知らない曲なのか。
ただ、胸が苦しくなる曲だった。
曲調も、歌詞も。
歌っている人の姿を探してみたけれど、何処に見当たらなくて、一番近くなった時にふと下を向いたら、くせっ毛の男の子が寝転がりながら、泣きながら歌っていた。
私の感じていること、それと同じことを、感じているんだとわかった。
その曲が終わるまで、私はしゃがんで曲を聞きながら、お酒を飲んだ。甘いのを買えばよかった。家の炭酸水で割ろうと思っていたから、瓶のジャックダニエル。
歌い終えた彼と目が合った。彼が手を伸ばしたのか、それとも私が差し出したのか、はたまた同時だったのか。旧知の仲のように、私は彼に飲みかけお酒をわたしていた。彼は寝たままそれを飲み、私は返された瓶を受け取って横に座った。
しばらく彼は寂しげなメロディを彷徨わせる。それに声が乗って、向こう岸まで行くのが見えるようだった。
私たち目からつぅー……っと、何かが流れた。
残っていたお酒を無理矢理半分くらい飲みほして、残った分を彼に渡すと、彼はそれを飲みほした。空になった瓶を受け取って、どうしてか私は、愛について考えた。
愛って、こうやって、生きるのに不器用な人に必要なのかもしれなくて、必要なものっていうのは、欲している人のところにはなかなかこない。それでも探してしまうのは、私が、そして彼も、まだ生きることを諦められないから。
彼の歌も、星に伸ばした私の手も、それを探している。
彼には歌がある。だけど私には手しかない。だから、手繰り寄せないといけない。少し彼が、羨ましかった。
立ち上がり、仰ぎ見る。星空は落っこちて来てはくれない。
歩きだした私の背中に、知っている曲が聞こえだす。知っているものより切なく聞こえる。
瓶をマイクに私も歌う。
ギターが、声が、聞こえなくなるまで。
いつか星座を、見つけられるように。
了
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