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一言で表すならば、ここはまさに豪華絢爛な場所であった。
慣れないドレスに身を包み、クロネ・シーマンはきょろきょろと周りを見回した。
優雅な音楽が流れ、ウェイターがシャンパンを持ち運ぶ。この場にいる者達は皆一様にドレスやタキシードを身に纏い、天井から吊り下がるシャンデリアの下で食事や交流を満喫している。
ここは地獄協会の要人が開いたパーティーの会場である。
「無事に潜入できたっすよ」
クロネは挙動不審気味にフロアの人間を観察し、「怪しまれてはいけない」と緊張しつつテーブルに置かれた食事に手を出しながら呟いた。
挙動不審になるのもおかしくはない。この場所には地獄協会においてそれなりの地位を得ている人間がうじゃうじゃいるのだ。夫人を連れている偉そうな男、美人に鼻の下を伸ばしているオヤジも多分そうなのだろう。
それ故に、会場は数々のセキュリティーが仕掛けてある。最も厳しいのが魔導を検知する死神道具である。会場内の至るところに設置されているはずだ。
"背徳の墓守"を用いて身体能力を吊り上げ、会場内に足を踏み入れた瞬間に魔導が解けるようにタイミングを計算し、はるか上空から敵地に潜入したクロネ。バレてはいないか、と内心ひやひやしているのだ。
だが、しかし。
『よくやった……。主催者を探せ……立法会議所のリボル・リートだ……』
彼の頼みならばどんなに危険な任務だろうが関係ない。リドルセン・キャスケットの声を耳に仕込んだ通信具を介して聞くと、クロネは頷きながら動き出した。
「わかったっす」
地獄法をより洗練した物へと昇華する為に日々議論を重ねる場所である立法会議所。その名誉相談役がリボル・リートである。顔は事前に写真で覚えている。頭頂部をさらけ出した白髪の髪型に、シミの目立つ何とも意地が悪そうな顔。そんな老人である。
あくまでパーティーを楽しんでいる、という雰囲気を精一杯演出しながら。クロネはぎこちなく会場内を見て回る。
「リドさん、これは実験っすよね? なんでこのおじいさんを選んだんすか?」
クロネはある実験の為に老人を探している。リドの魔導を試す実験の為。
そこで彼女は気になった。なぜわざわざ要人をターゲットにしたのか。
『どうでもいいだろ……私怨だ、私怨……』
クロネの疑問に答えたリドの声は何だか少し小さいように感じた。
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