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「私怨っすか。なるほどっす。深くは訊かないでおくっす」
何週間かリドと一緒にいて学んだことだ。彼の過去について尋ねようとすると途端に愛想が悪くなる。元々悪いのになおさら悪くなってしまう。
だからクロネはそれ以上追及せずに人探しに注力することにした。
きょろりきょろりと辺りを見渡す。多くの人間が欲求を満たしている。やはりすぐには見つけられない。
人とすれ違う瞬間、思わず顔を逸らしたり。美味しそうな食事に手を伸ばしたくなったり、と。少々危なげな素振りで歩くクロネ。
ふと視線を人群れに染み込ませた時であった。
「……見つけたっす」
クロネの目がリボル・リートの姿を捉えていた。
『近づいて仕掛けろ……。……言葉遣いに気をつけろよ……?』
リドの言葉が耳を這った。「わかったっす」とだけ呟いて、クロネはリボルの元へ足を踏み出した。
途中、ウェイターの運ぶシャンパンを手に取って。チャポン、と。その中にひっつき虫のような物を入れた。
それは”既に作動している死神道具”。リドと行動を共にしているジョン・ディルセンから受け取った物である。この子道具がある位置を正確に親道具へと伝える優れものだそうだ。
魔導具でなく死神道具ならば検知されることがない故に安心して使える。
死神道具入りのシャンパンを片手に禿げた老人の近くへ寄って、そして躓いた。
「あっ……」
わざと、である。わざとらしく小さ声を漏らしながら、クロネはシャンパンをリボルへと引っ掛けていた。
「おっと……」
リボルは急な出来事に驚き、自分の一張羅がずぶ濡れになっていることに気がつくと少しげんなりした表情に。
「す、すみませんっ……です!」
クロネは少し怪しい日本語で。おおよそ予定通りの台詞をリボルへと吹っ掛けた。彼は明らかに気分を害したようであったが、周りの目を気にしたのか。
「私のことならお気になさらず。それよりもお嬢さんこそ大丈夫ですかな? その美しいドレスにシャンパンがかかってしまっていたら大変だ」
何だか遠回しな嫌味を含んだような言い回しで笑った。作り笑いであることはすぐにわかった。
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