胎動

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 そんな作り物の表情に、作り物の困り顔を返したクロネの耳にリドの声。  『いいぞ、魔弾を放った……。……危ないから少し離れろ……』  それにクロネは従う。  ドレスにシャンパンがかかっていないか確認する体でリボルと距離を取り、  「えっと……大丈夫みたいっです」  自分の身体を確認。リドの指示から十数秒。目を上げた瞬間、それは降った。  建物の天井を突き破り、一直線に黒い殺意がリボルへ。  「そうですか、それはよかっ――――」  嫌味さを隠しきれていなかったその表情を破壊した。  それはリボルの肩へ突き刺さった。黒曜石のような光沢のある黒。長さおよそ30センチ程の槍が老人を貫いていた。その黒い槍は恐らく心臓を破壊したのだろう。リボルは叫ぶことすらなく血を噴出して倒れた。  一拍置いて悲鳴が響き渡った。リボルの周りにいた人間のものだ。クロネも怪しまれないように悲鳴を上げるふりをした。お粗末な演技であっただろうが、最早このパーティー会場はそんなことが気にかけられるような空間ではなかった。  ばれないように、小さくクロネは呟く。  「お見事っす。綺麗な花が咲いたっすよ」  『よし、頃合いを見計らって逃げろ……。落ち着いて警備が強化される前にだ……。墓守は使うなよ……?』  リドの冷たい声がクロネの心を震わせた。  ――――美しい。  リドの実験は見事に成功した。外れることのない魔弾、否、魔槍。彼の魔導は完成に近づいていることがこれで証明された。  あとは”数キロ離れた場所にいる”リドルセンの元へ戻るだけだ。  クロネは絶句しているふりの為に口元を手で覆いながら、桃色の頭髪を揺らした。思わず笑みをこぼしてしまっていることに気がつかれないことを祈って、彼女は一歩、また一歩と後退した。
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