檻の中

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 あれから二週間が経過した。  美束が姿を消してから。ジェーンが片腕を失ってから。壮介が意識を失ってから。  執行部と魔導対策部が必死に捜索しているにも拘らず、未だに美束の居場所は掴めず。大手の医療機関にユジローが頼み込んで共同で出来るだけ本物に近い義手を作ろうとしているにも拘らず、ジェーンの右腕は仮の義手のままで。13日間という時が経ったにも拘らず、壮介は眠ったままだ。  窓から一陣の風が吹き込んだ。協会一の医療施設の一室にて、ベッドに横たわる壮介を、キルコは頬にそよ風を感じながら見つめていた。  「壮介、調子はどうかな? もう真夏だね、今日は特に暑いよ。ゆだっちゃいそう」  8月13日。真夏の気温を紛らわせてくれる優しい風は、キルコの心までは晴らしてくれなかった。  ここ二週間の日課である彼との会話。キルコは無言に答える。  「そうだ、今日は久しぶりに仕事に行ってくるよ。なんだかんだで普通の生活に戻れたみたい」  カガクラや菖蒲が懸念したようなことは未だに起きていなかった。つまり、地獄を統括する議長の意思に反した行動を起こしたことに対する報復が為される気配はない。  自分の中で極度に張り詰めていた警戒的緊張感が少しずつ緩んでいくのをキルコは感じ取っていた。  しばし言葉を途切れさせ、キルコは微かに首を横に振った。  「戻れてるわけないか」  そう、そんなわけがない。これを普通と呼ぶには、足りないものが多すぎる。  キルコは思い出す。昨晩カガクラから伝えられたことを。  ――――対策部の人間が殺害された。目撃証言が美束の特徴と一致した。  ジェーンから聞かされた美束との別れ際のこと。彼女はまるで別人のように表情が、性格が、魂が変化していたという。恐らくは魂に残った魔導者の残滓を利用した偽国に改造されたのだろう。  今彼女は偽国と共にいるのだろうか。それとも独り彷徨っているのだろうか。  どちらにせよ彼女、否、彼女の形をした魔導者が殺人に手を出してしまった。  ――――自分が彼女を救えなかったせいで。
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