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キルコは後悔する。蓮田壮介を巻き込んでしまったことを。
彼の状態に特に変わった様子はないらしい。普通の生きている人間と何も変わらない生体反応を示している。ただ、眠ったまま目を覚まさないという一点を除いて。
つまり原因が分からないのだ。ということは治療に繋がらない。
まさか今だとは思わなかった。タイミングよく偽国が復活するなど思わなかった。今、魔導との争いが再び巻き起こるなど予想していなかった。
(だからなんだ……)
そんな言葉、キルコには言い訳にはならなかった。
彼はこんな世界を知らなくても困ることはなかったはずだ。知らなければ深い眠りに落ちることなどなかったはずだ。
――――全ては死神キルコのせいだ。
キルコは真っ暗な瞳に一層影を落とし、さらに闇深く沈ませて。ため息を吐き出すのをためらって飲み込んだ。
密室の施設から帰還した次の日、菖蒲に言った言葉は嘘ではない。まだ、美束を救う為ならば何でもする決意は折れていないし、壮介が目覚めることを諦めてもいない。
しかし何もかもが遠すぎるのだ。
美束の捜索を主として行っているのは魔導対策部調査班。キルコは来るはずの無い新情報を待つしかなく。壮介が目覚める兆しも見えない。ただ祈ることしかできない。
遠すぎて、重すぎる。
逃亡者と化した美束。眠った壮介。それに加えて。悪意を蠢かす偽国。密かに活動するリドルセン。美束を餌として扱い失わせた議長とその手先である密室。
全てが土砂となりキルコにのしかかっていた。今にも息が詰まりそうだ。
「……………………仕事行かなくちゃ」
ところどころ欠けた歯車が無理やり噛み合わさろうとしているような。そんな不快で不安で不気味で不調な精神で、キルコは壮介へ頑張って笑いかけて立ち上がった。
「行ってきます」
そう言って、キルコは彼の頬を優しく撫でた。
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