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「俺か? 簡単だ。”お前”だよ」
まるで、お返しだ、とでも言わんばかりに壮介に指をさし返して笑う。
「………………」
期待通りの答えとはいかない。しばし沈黙して次。
「……ここはどこだ?」
これも理想の答えは「夢だ」だが。しかし。
「決して夢なんかじゃねえぞ?」
真っ向から否定された。否定して彼は続ける。
「タイニーの作った世界に似てるだろ? でもアレとは何もかもが違う。アレはあくまで魔導が作り出した結界。ここは、”お前”だ」
「……俺?」
指さした状態のままの手を振って”お前”と強調。彼は続ける。
「お前の精神の中だ。脳の整理が原因で発生する夢なんて現象なんかじゃない。ここは正真正銘、お前の脳みそに充満してる意識の中だ」
「俺の…………」
思わず両手の平をまじまじと見つめてしまう。ここが自分の心の中だったら、今ここにいる自分は一体何なのか。
「その身体もお前の意識だ。言っちまえばお前の人格だな」
壮介の考えを見透かしているかのように、彼はすらすらと疑問に答える。
(ん、人格……?)
何かが引っかかった。
この自分が”自分の人格”だとしたら、目の前にいる”自分”は――――
『病院、行ったことありますか? ……頭の』
いつかジェーンに訊かれたことを思いだした。彼女には”彼”が見えていたのだろうか。
「お前は……俺の別の人格ってことか……?」
向かいの自分が影となって揺れた気がした。ご名答、と応答。
「一般的な心の病的な多重人格とはわけが違うが、まあそういうことだ。10年間以上この時を待ってたんだ。会えてうれしいぜ、”俺”」
彼は心底嬉しそうに笑って見せた。自分が目の前で歓喜している。何とも不思議、否、不気味だ。
「………………」
壮介は自分が多重人格者であったことに絶句していると、彼から口を開いた。
「最後、何のために、だったか? 簡単だ」
彼は深く壮介の目を見据えて言った。
「お前を守るためだ」
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