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永遠やぞ。
そう言って深くキスをしてくれた。
三十路を過ぎた女が、
頬を染めてその言葉を信じている。
男は、なかなかの食わせもののようだ。
律子が恋に落ちたのは、昨年の初秋。
長雨が続いていた頃だった。
やっぱり女はこれだからと揶揄され、
悔し涙を流した会議の後に、
柄にもなく空を見上げ星に願いを捧げた後だった。
橋を渡ると急に黒い雲に覆われ、
ビニール傘に、ひっきりなしに雨粒が当たった。
先程まで罵声を浴びつづけた律子には、
雨音が重なって聞こえた。
傘を外し、雨に打たれながら泣き崩れてしまいたい位、何もかもが嫌になり、もうどうでもいい様に思えていた。
涙に霞んだ目に人影が映った。龍次だ。
どーしたんや! 何あってん?
この男はいつもこう明るい。
白い歯を見せて爽やかに笑う。
え? 何もない、何もない… 言葉が続かない。
立っているのが精一杯で涙が溢れた。
こういう時は龍次に一緒にに居てもらいたい。
ただ黙って何時間でも側に居てくれる。
そんな優しさのある男である。
しかし、この日の奴は違った。
有無を言わさぬ速さで傘を宙に捨て、
律子をしっかり抱きしめた。その後の展開は想像も容易であろう。
二人が距離を縮めるのに時間は必要なかった。
何年も前から付き合っているように、
もしくは既に結婚しているかの様に
回りは二人を見ていた。
そして二人も、
この幸せが永遠にあるものと信じていた。
龍次が、初めてインフルエンザにかかった。
律子は毎朝出勤前に食事を届けた。
中に入るな! 移したらアカン。
龍次らしい心配りではあるが、
律子には寂しい見舞いの繰返しであった。
ドアノブに荷物を吊り下げ帰る日が続いた。
3月に入り仕事が忙しくなっても、
お互いの時間を極力作り逢瀬を楽しんだ。
しかし岐路は、突然やってくる。
律子の海外赴任の話が決まった。
全く… である。
程ほどに手抜きをしても良い仕事なのだ。
実際周りの男性達もそうしている。
それが、律子には許せない。
当然のように赴任地で働くつもりの律子。
龍次との間にすきま風が吹いたのを感じていたら、或いは彼の胸のなかに飛び込んでいたであろうか?
出発の日、龍次は最愛の人に最高の敬意を払って
キスをした。
(この愛は、)永遠やぞと言葉して。
律子の居ない5年間への不安を払拭して、
甘く、甘く、再会に祈りを込めて。
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