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「お前は知りもしなかったろうがな……
サヤカちゃんも、ずっとお前の事が好きだったのさ。
けど恋敵が美人の姉じゃ、どうしようもなくて……
それでもずっと諦め切れずにいた。
お前らとは疎遠になった俺だから、むしろ相談し易かったんだろう。
何度も、その痛切な胸の内を聞かされたよ……」
「……ウソ……だろ……」
「サヤカちゃんはな、
自分という人間を捨ててまで……
お前と一緒になりたかったんだよ。
自身の痕跡や行方を、自身で消し去る工作までして……
ミカとして生きる事を決めたんだ」
「……………………」
言葉が出ない。
俺はあろう事か、ミカだけでなくその妹のサヤカまでも手にかけていた。
自分の激情で身勝手にミカを殺し、
あまつさえ、
己を丸切り犠牲にして、
――そこまでの想いを抱いてくれていたサヤカまでを殺した。
「も、もう……
死んで詫びるしかない!
自ら命を絶って、あの世の二人にっ!!」
「――馬鹿を言うな!
いいか、俺は医者だ。
もっと言うなら、魂だとか死後の世界なんて信じちゃいない。
精神は確かに尊いものだ。
けれど、それは生きてる人間の為にある。
死んでしまったものに感情も意思もない。
だから俺は……
死んでしまったミカよりも、生きていたサヤカちゃんの想いを優先させて……
こんな企みをしちまった。
サヤカちゃんがそれでも幸せになるなら、と。
そしてお前自身、
人殺しというその枷を背負ってでも、やり直してくれる事を望んだ。
俺が”半分”と言ったのは、そういう意味合いも込めてだ……」
「トウ……ヤ……」
「だから、死ぬなんて言うな。
ケンジ、自首するんだ。
本当は初めからこうしておくべきだった……
俺も、お前と同じくらいの馬鹿野郎だな。
それでも自首すれば、突発的な殺人で”一人”――
刑期は長くても20年かそこらだ」
そう言って、力強く俺の肩を包み込む。
しかし――
トウヤの言葉に違和感が拭えなかった。
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