蛇蝎の袋

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 さんざんと感謝の言葉を述べて、ケンジはその足で警察へと向かった。  少し計画を修正しなくては。  サヤカちゃんには気の毒な事をしたか。  とは言え、衝動で二度も人を殺してしまうような真性のキチガイに惚れたのが問題だ。  むしろ、二ヶ月ちょっとでも恋人気分で同棲できて満足だろう。  根回しをして、遺体が俺の元に検視解剖に渡るようしなければ。  にしてもまったく、俺の臭い三文芝居も案外と捨てたもんじゃないな。  これで当分はバレる事がない。  気分よく、地下にある隠し部屋へと向かう。  そこには彼女が待っている。  ようやく探し当てた、俺の理想の女性。     豪勢に設えた天蓋付きのベッドの上で眠っている完璧に防腐処理を施されたその身体。  血色こそないものの、むしろその土気色の妖しい肌にそそられる。  その美しい面、その艶めかしい肢体。    全てが俺の探し求めていた通りだ。  ああ……  ”ミカ”――  やっぱりお前は綺麗だ。  子どもの頃からずっとそう思っていた。  だが、俺にはどうしても許容できない事があった。  そうやって生きて、動いている時のお前は、自らの美貌を自らで穢していた。  歯を見せて笑うその下品さ、  怒りに頬を歪ませるその醜さ、    感情、表情――  それらが類稀なるその美しさを害していたのだ。  でも今は違う。  もう動かないお前は、完璧なまでの”美”を手に入れた至高の存在。    どうして生きている女どもは、ああも醜いのか。  氷のように微動だにしない人形達のその美しさを――  奴等は生きている限り体現し得ない。  その結論に達した俺が、  ようやく手に入れた……  ――最愛の女性。      【終】
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