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約束より少し遅れて、あいつはやって来た。
指定したのは深夜営業のファミレス。
「よお、久しぶりだな。ケンジ」
変わらぬ飄々とした身振りでそう軽く言って、対面に座る。
「悪い、こんな時間に呼び出してさ……」
「んん? まあ、気にすんな。
前の職場と違って、今は悠々と仕事できるからな。
俺を待ってるのは、物言わぬ連中だけだよ」
目の前の男――トウヤが、そう笑って気遣いを向ける。
「お前はどうだ?
相変わらずか?」
「まあ……」
トウヤとは幼馴染だ。
以前は大病院の外科医をやっていた。だが、激務と職場の人間関係に嫌気が差し、そこから監察医に転向したらしい。
監察医――遺体の司法解剖を行う仕事。
大きな病院でエリート街道まっしぐらだった事を鑑みれば、いかに変わり種な事か。
「ああ、そういや――
ミカは元気にしてるか?
まだ付き合ってんだよな?」
トウヤのその何気ない一言に、びくりと肩を震える。
ミカ……
俺の最愛の人……。
つい数時間前までは、彼女のその温もりをこの肌で感じられていたのに。
今はもう、それこそ物言わぬ、冷たいだけの肉の塊だ。
「懐かしいな。
俺も医科大なんか目指してなきゃ……
お前らと一緒に、楽しくやれたんだろうなあ」
トウヤは懐かしむように目を細めて、青春時代の話に花を咲かす。
「そう、サヤカちゃんにもこの前会ったぞ。
『お姉ちゃんも、さっさとケンジさんと結婚すればいいのに』って、ぼやいてたっけ」
俺とトウヤにミカ、そしてミカの一つ違いの妹であるサヤカの4人は、小学校以来からの仲だ。
昔は確かに、その4人でどこへでも行った。
けれど、トウヤが勉強の為に時間が許されなくなると、そんな4人の幼馴染の関係も薄れてしまった。
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