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そうして――
唐突にポツリを呟く。
「綺麗だな――」
「……え?」
「やっぱりミカは綺麗だなって。
子どもの頃から、とんでもない器量だと思っていたが……
その全てを余す所なく見て、さらに確信した。
こんなにも美しいだなんて――」
「何を言ってるんだ、トウヤ……?」
「クラスどころか、学校中からの憧れの的だったろ?
そんなミカが、まさかお前とくっつくだなんてな。
……そして、まさかこんな結末を辿ろうとは……
思いもしなかった」
最後のその台詞は、深い溜息に混じって聞こえた。
その言わんとしている所を察し、ただ俺は涙が溢れ、膝を着いた。
わかってる。
自分がどれだけおぞましい事をしたかを。
自分がどれだけ浅ましい事を願っているのかを。
「本当に俺はミカの事を愛していたっ!
誰より、何よりも深く――ミカだけを愛していたんだ!
嘘じゃないんだ……!
嘘じゃないんだよぉ……」
嗚咽に塗れたそんな懇願。
けれどトウヤは変わらず、動かなくなったそのミカだけに眼を遣り、俺の方には見向きもしない。
自分の中の冷めた部分が「当たり前だ」と蔑みの声を上げる。
あるいは俺は、
こうして事を発覚させる事を望んでいたのか。
正体の無い自分では、どうする術も持てずに。
後の事は警察が処理してくれて、俺の罪はただ司法に委ねられる。
それこそが、正しい結末か。
額を床につけて、ただ情けない声をあげる。
ふと、
そんな俺の肩を力強く包み込む掌があった。
見上げれば、トウヤが間近の距離にいる。
そのひどく生気がないようで、それでもぬらりと光るようなあの瞳。
「けどな、ケンジ――
心配するな、何とかしてやる」
自分の耳を疑った。
そしてその日、
悪魔が実在する事を知った。
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