悪魔との契約

6/6
前へ
/17ページ
次へ
 そうして――  唐突にポツリを呟く。 「綺麗だな――」 「……え?」 「やっぱりミカは綺麗だなって。  子どもの頃から、とんでもない器量だと思っていたが……  その全てを余す所なく見て、さらに確信した。  こんなにも美しいだなんて――」 「何を言ってるんだ、トウヤ……?」 「クラスどころか、学校中からの憧れの的だったろ?  そんなミカが、まさかお前とくっつくだなんてな。  ……そして、まさかこんな結末を辿ろうとは……  思いもしなかった」  最後のその台詞は、深い溜息に混じって聞こえた。  その言わんとしている所を察し、ただ俺は涙が溢れ、膝を着いた。   わかってる。  自分がどれだけおぞましい事をしたかを。  自分がどれだけ浅ましい事を願っているのかを。 「本当に俺はミカの事を愛していたっ!  誰より、何よりも深く――ミカだけを愛していたんだ!  嘘じゃないんだ……!  嘘じゃないんだよぉ……」  嗚咽に塗れたそんな懇願。  けれどトウヤは変わらず、動かなくなったそのミカだけに眼を遣り、俺の方には見向きもしない。  自分の中の冷めた部分が「当たり前だ」と蔑みの声を上げる。  あるいは俺は、  こうして事を発覚させる事を望んでいたのか。  正体の無い自分では、どうする術も持てずに。    後の事は警察が処理してくれて、俺の罪はただ司法に委ねられる。  それこそが、正しい結末か。  額を床につけて、ただ情けない声をあげる。    ふと、  そんな俺の肩を力強く包み込む掌があった。  見上げれば、トウヤが間近の距離にいる。  そのひどく生気がないようで、それでもぬらりと光るようなあの瞳。 「けどな、ケンジ――  心配するな、何とかしてやる」  自分の耳を疑った。  そしてその日、    悪魔が実在する事を知った。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加