貴方へ

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(ふわぁ~、色んな生徒がいる!) 体育館で、校長先生の暇な話を聞いてるなか、和葉は自分のまわりをキョロキョロと見回していた。真面目そうな子、ちょっと不良っぽい子、大人しそうな子、様々だ。クラスごとに縦に並んでいるのだが、和葉のクラスの男子生徒の中には秀がいた。秀の後ろ姿を見ると、和葉はドキッとした。 (あ……秀……!) 甘美な想いが、和葉の心に滲み出てくる。自分でもこの想いはなんなのかわからなかったが、心がドキドキして、少し胸が苦しかった。それが恋だとも知らずに……。キュウウと胸が締め付けられる。和葉は胸に手をあてる。頬が少し火照っていた。 校長先生の長い話が終わると、生徒達は自分のクラスの教室に移動する。和葉は1-B組だ。ラッキーなことに、親友の橋本加奈とも同じクラスだった。和葉と加奈は席が少し離れていたが、お互い目が合うと、両者とも親指を立ててウインクし合った。 和葉は秀とも席が少し離れていたが、どこか秀の様子がおかしいことに、気がついた。 (……秀?) 秀は幼馴染みだ。幼稚園、小学校共ずっと仲良しで、和葉にとって何でも話せる異性だった。いつもなら同じクラスなら同じクラスで、気楽に話しかけてくるなりしたのだが、今の秀にはそんな様子はない。どこか生気が無いように感じられた。 (秀、なんか変。どうしちゃったんだろ?) 和葉はペンケースから消しゴムを取り出し、秀目掛けて投げた。秀の肩に当たる。秀は少し栗色がかった髪を耳にかけると、和葉の方に振り向いた。 和葉は目が合うと、にっこり笑う。秀は、少し目を見開き、驚いた様子で和葉を見る。まるで赤の他人を見る時のようである。秀はすぐに暗い表情をして、消しゴムを持ち、席を立って和葉の方に歩いてきた。 「……消しゴム、お前のだろ?」 予想以上の暗い表情、そして生気の無さ、素っ気なさに、和葉は一瞬言葉を無くした。 「え?あ、う、うん……」 どこか気まずそうに目をふせて、和葉は答える。何か気に障ることでもしたのだろうか、と和葉は思う。否、そんな感じはなく、誰にでもそんな態度をとっているように思える。明らかにおかしい。秀は心を閉ざしている。そんな風に和葉は見えた。
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