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彼の名は池村慎也。悠子と同期だ。白バイ隊員になって一年位経つ。悠子の夫と同じ分駐所に転勤になった。
代わりに中西隊員が八王子の分駐所に転勤になったらしい。
「私で悪かったわね。私、苗字変わったのご存知ない?」
悠子はペンを持ったまま、やや眉を顰める。よく同期の警官からは旧姓で呼ばれる事が多い。
「知ってるとも。同じ職場に君の旦那がいるからな。しかしかわいい婦人警官ってお前だったのかよ。つまんねぇ」
また同じ事を言い、舌打ちをしながら彼は汗を拭く。彼は背が百八十近くある。夫と同じ位の痩躯。白バイが似合う。ヘルメットをかぶるため、坊主頭に近い短髪。
「独身の美人警官だったら口説くつもりだったの?」
「勿論だ」
堂々と発するところが情けない。悠子はやれやれと呆れた。その口調からすると、まだ彼女がいないのだろう。
「なぁ、何か飲みものねぇか?」
池村隊員は喉がカラカラらしい。悠子は立ち上がり「ちょっと待ってて」と給湯室へ入って行く。
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