ランチを君と

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「ガタイがいいからか? なんか柔道でもやってたような体格だよな。元サッカー部のくせに。」 さすがリサーチ済みですか。 「別にタフそうに見えるから魅力的ってわけじゃないけど、今回の先輩に関しては身体目当てだったのかも。」 話していてムカムカしてきた。慎一のことをそんな目で見ている女の人がいるというだけで腹立たしい。 私の腰を広木くんが見ていると知った時の慎一の気持ちが少しわかったような気がした。 「身体目当てねぇ。それを美月に報告したってことは、堂本は据え膳を食わなかったってことか。」 「当たり前でしょ?!」 「当たり前のことが出来ない男が結構いるんだよ。女から誘われたのに、断って恥をかかせたら悪いって思ってさ。しかも相手が会社の先輩なら尚更だ。」 「そうかもね。でも、慎一はそんな人じゃないから。」 全裸の由加利先輩を冷たく追い払った慎一を思い出した。 慎一がフェミニストじゃなくて良かった。優しくしてくれるのは私だけでいい。 「この店。いい?」 オフィス街のビルの一角にあるパスタ屋の前で立ち止まった兄に頷くと、兄が先に立ってお店に入って行った。 こじんまりとした店内に足を踏み入れると、ガーリックのいい匂いが食欲を誘う。 昼時なのに空いていて、兄は店員に会釈すると、さっさと奥のテーブル席に座った。 窓の外にビルしか見えない席を選んだのは、他のテーブルから離れているからだろう。 「明太子だろ?」 メニューを見て、私の心を読んだかのような兄に苦笑いしながら頷いた。私の好みなんてお見通しだ。 兄が店員に声をかけ、2人分の注文をしてくれた。 「昨日はゴメン。でも、お母さんが本当に心配してたみたいだったから、マズいと思ったの。」 私が切り出すと、兄も昨日のことを思い出したようにイスの背に深く身体を預けて眉間にシワを寄せた。 「よっぽどお袋にはっきり言ってやろうかと思ったよ。俺は美月に惚れてるけど、この家で抱くつもりはないから安心しろって。」 ”この家で”って…… 他の場所なら抱くつもりみたいに聞こえるじゃない。 「もう、お兄ちゃん!」 私が口を尖らせると、その唇を兄が人差し指でそっと押さえた。 「こっちは必死で我慢してるんだ。膝枕ぐらいでガタガタ言いやがって。」 いつも穏やかで紳士的な兄が、母に対してだけはどうしてこんな言い方になるのかな。
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