雨の日、彼に出会った

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「あ、雨。」 電車を降りて改札を出た私は、暗い雲に覆われた空を見上げて呟いた。 同じ電車に乗っていたのか、ほぼ同時に私の横に立った男性と声が揃った。 え?と驚いて隣を見ると、背の高い男性が空を見上げていた。 私の周りで次々と傘が開く。 私もお気に入りのオレンジの傘を開いて、駅前のロータリーの中央の歩道を歩き始めた。 この傘は会社の同期の女の子たちと温泉旅行に行った時に買ったものだ。 突然の雨と強い風に慌てた私たちは、旅先の駅ビルで傘を買うことにした。 婦人物にしては大きくて頑丈そうなその傘を手に取って会計を済ませてみれば、6人全員が同じ傘を買っていて、しかも色は見事なまでにバラバラで大笑いしたっけ。 ブランド物でも何でもない傘だけど丈夫で使いやすく、何より温かい思い出が詰まっているので愛用している。 入社当時10人いた同期の女の子も1人辞め2人辞めして、5年目の今では私1人になってしまっていた。 もう会社の傘立てに色違いの傘を見ることはない。 ロータリーを抜けたところの横断歩道で立ち止まった私は、隣の男性が傘を差していないことに気づいた。 あ、さっきの人だ。 結構なザーザー降りなのに、バッグを頭の上にかざすこともせずに、平気な顔で信号待ちをしている。 駅から数分歩いただけで、すでに彼のスーツの色はまだらになっていて、髪の毛は濡れ細っていた。 10月の終わりの東京はまだコートを着るほどではないけれど、夜8時を過ぎるとさすがに肌寒い。 こんな冷たい雨に打たれて大丈夫なんだろうか。 「気が付かなくてごめんなさい。良かったら入りませんか?」 私がそう言ってその男性にオレンジの傘を差しかけると、彼は酷く驚いた顔で私を見た。 「私、2つ先の信号の辺りまで行くんですけど、方向が同じだったらご一緒に行きませんか?」 畳みかけるように誘うと、彼はにっこりと微笑んだ。その目尻や口元に笑い皺が出来る。 真横に立っているし顔の位置も私よりかなり上なので、まじまじと顔を見ることは出来ないけど、なんとなく柔らかい雰囲気の人だなと思った。 歳は私より少し上ぐらいだろうか。 「ありがとう。俺もあの信号の手前の店まで行きたいんで、入れてもらえると助かります。」 隣から聞こえた声はビックリするぐらいいい声で、この人、声優かしらと思ったほどだった。
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