寄せられる好意 -side S

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「嘘?! どうして? そんなに簡単に諦めちゃうの? そんなものなの?」 ショックを受けたような美月の声にハッとした。 悲しそうな傷ついたような目で俺を見ている。 慌てて頭の中で言い方を考えるが、どう言ったら俺の気持ちが正確に伝わるかわからない。 「美月の前提が間違ってる。おまえに婚約者がいるってことは、美月は俺を好きじゃなくて俺の片思いってことだ。だとしたら、俺はまだ生まれ変わってないから、おまえをただ遠くから見てるだけのヘタレだ。そんな簡単に諦められるわけないけど、他の誰かから奪えるなんて自信もない。」 そこまで言って気づいた。 そうか。広木も実はそんな感じなのかもしれない。 美月が俺にべた惚れなのを知っているから、俺から奪えるとは思えない。 でも、諦められないから、いつかもしかしたらと思い続けている。 「そっかぁ。」 何か考え込むような美月の様子に、彼女もまた同じことを考えているのではと思った。 まさか広木への同情が愛に変わるなんてことはないよな? と少し不安になる。 「逆だったら私も奪おうなんて思えない。慎一を想いながら、次の恋を探そうとするかも。……うん、私の前提が間違ってたね。」 明るく言い切った美月は、この話はもう終わりとばかりに明日の朝食をどうするかと訊いてきた。 それに半ば上の空で答えながら考える。 美月も相当なヘタレだ。 昔、駿さんへの想いを誤魔化すために旬先輩と付き合ったり、今だって八神さんごときに身を引くことを考えてしまったり。 俺の愛は結構重いと思うけど、美月にはもっと愛しているってことをわからせた方がいいのかもしれない。 「そうだ。慎一、まだ結婚指輪に彫る文字、メールしてないんだって? ジュエリーショップの人に言われたよ。そろそろ連絡くださいって。」 「なんで俺に直接言ってこないんだよ。」 「私が電話したから、ついでにじゃない?」 「俺ももう決めたよ。」 All my love. シンプルだけど、それに尽きる。 「フフッ。楽しみ。」 微笑む美月をギュッと抱きしめた。 「俺もすごく楽しみ。」 美月との未来が待ち遠しい。 ――怖いぐらいに。苦しいぐらいに。
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