ランチを君と

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「そうだといいんだけど、残念ながら自分で弁当作ってるよ。そうだ。白川さん、今度、僕の弁当も作って来てくれない?」 「そんなことしたら、慎一に殺されるかも。」 私が大真面目で答えると綾瀬ちゃんは目を白黒させ、広木くんはクスクスと肩を揺らした。 1階に着いたので綾瀬ちゃんにじゃあねと声をかけてエレベーターを降りたら、なぜか広木くんも降りて来た。 「広木くん、コンビニにでも行くの?」 「いや。ちょっとお兄さんに挨拶しようかと思って」 言いかけた広木くんの目が正面玄関の向こうに立つ兄の姿を捉えて黙り込んだ。 たまに一緒にランチする時は、兄が私の会社の近くまで来てくれる。 会社同士が近いとは言っても地下鉄の駅1つ分は離れているから、制服姿の私があまり遠出するのは辛い。 お店が決まっていればお店で待ち合わせることもあるけど、今日は兄が会社まで来ることになっていた。 歩道の街路樹の横に立つ兄は、茶色のスリーピーススーツをスマートに着こなしている。 通り過ぎる人々が振り返って見て行くのを、まったく気にする様子もなく立っていた。 それはそうだろう。兄にとって人々の注目を浴びるのは、子どもの頃から当たり前のことだから。 2人の受付嬢の前を通り過ぎる時、広木くんも私も軽く会釈をしたけど、彼女たちの関心は専らガラスドアの向こうの兄に向けられていて、私たちは無視されてしまった。 「何と言うか存在感のある人だね、お兄さんは。」 広木くんの言葉に私は小さく笑いを零した。いい表現だ。 兄は超絶イケメンというだけではなく、独特のオーラを身に纏っている。 特にこんな風に外で1人で立っている時は、人を寄せ付けない気品のようなものが溢れている。 『神々しくて、とても話しかけられない。』 中高生時代、よく私の友達がそう嘆いていた。 「白川さんはお兄さんと堂本さん、どっちの方が好きなの?」 広木くんの一言で私の笑顔が凍り付いた。 気付かれている? まさか、そんなわけはない。 でも、こんな質問、おかしい。 「どっちも。」 わざと明るく答えると、兄が私を見つけて手を軽く挙げた。そんな仕草でさえ素敵だ。 「ごめんね、待った?」 自動ドアを抜けると、こちらに歩み寄って来た兄にニコッと笑いかけた。 笑顔を返しながらも、兄の目に訝し気な色が浮かんだのは、私の隣に広木くんがいるからだろう。
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