動画撮影 - side S

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「昨日、何かあった?」 社員食堂でAランチを食べていたら、林原が向かいの席に座った。 でも、トレーも何も持っていない。 「おまえ、メシは?」 「もう外で食べて来た。」 「そうか。……昨日、友近とデートだったんだって?」 「八神さんのとばっちりが来るのがイヤで逃げただけだ。ついでに言っておくと、友近とは別れたよ。」 「何かあったのか?」 林原にされた質問をそっくりそのまま返してやった。 「何も。ただ虚しくなっただけだ。おまえと美月ちゃんを見てたら羨ましくてさ。……友近は平気で手塚先輩と浮気するし、当てつけに僕が浮気しても何とも思わないみたいだし。デートらしいことをしようとしても、すぐにどこかに入ってシたがるだけで。」 俺はAランチを食べながら、向かいのテーブルに両肘をついて話し続ける林原に密かに驚いていた。 何の疑問も持たずに女をとっかえひっかえしていた林原が、友近とデートらしいことをしようと努力したんだ。まるで別人のようじゃないか。 「愛してるなんて一言も言わないんだよ、お互い。考えてみたら、愛してなんかいなかったんだ。ただ性欲だけで。野乃花の方がまだマシだった。少なくともあいつはヤキモチを焼いてくれたからな。」 「まあ、友近が相手じゃ、そんなオチになるだろうとは思ったけどな。」 林原なりに頑張ろうとしたんだろうが、相手が悪すぎた。 「だけど、僕とおまえのどこが違うって言うんだ? おまえだってデートらしいことなんてせずに、ヤりまくってるだけだろ?」 確かに最近美月と遠出したのは、俺の実家に挨拶に行った時ぐらいだ。 あの時だって帰りの山の上でエッチしたしな。 「ヤりまくっていても、いろいろ話もしてるし、お互いに相手をどれだけ想っているかをちゃんと伝え合ってる。大事なのは、そういうことじゃないか? おまえも慌てて次を見繕うんじゃなくて、何でもしてやりたいと思える相手に出会えるまで待ってみたらどうだ?」 「どこにいるかもわからない相手と出会えるまで、禁欲生活しろって? だったら、おまえが美月ちゃんに捨てられるのを待って、美月ちゃんと付き合うよ。」 「一生、待ってろ!」 まったく、どいつもこいつも虎視眈々と。 何があっても俺が美月を手放すことなんて、絶対にないのにな。
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