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「なんか、やっと気づいたんだよ。僕は美月ちゃんみたいな子が欲しかったんだって。重い女はずっと避けて来たけど、軽い女じゃすぐ飽きるんだ。」
「そうだろうな。でも、それは女からしても言えることだぜ? 軽い男はすぐ飽きられる。」
「おまえは重いからなぁ。美月ちゃんのこと、死ぬまで離さないって思ってるだろ?」
「甘いな。死んでも離さねえよ。」
ニヤッと笑って漬物をバリバリ噛む。
そんな俺を林原は呆れた顔で見たが、すぐに真顔になって額を寄せて来た。
「で? 昨日、どうした? 朝から八神さんの機嫌が悪くて、隣の課の女の子たちがビビってたけど。」
「俺は遅れて行くってことにして、結局行かなかったんだよ。八神さんのフォローは手塚先輩に任せて。」
「へえ? 手塚先輩とおまえって、よくわからないな。おまえの方が仕切ってるのか?」
「手塚先輩には貸しがあるし、今回は利害が一致したんだ。」
「ふーん。それなのに八神さんの機嫌が悪いってことは、手塚先輩がフォローしきれなかったってことか?」
「俺が逃げたことに気付いたみたいで、社宅に帰ったら八神さんが待ち伏せしてたんだよ。早く抱いてくれって。」
自分で言ってて恥ずかしくなる。
自分が女性にそんなことを言われるような男じゃないのは重々承知している。
それでも、美月はこんな俺に抱かれたいといつも思ってくれているんだ。
「で、抱いちゃったわけか。」
「は?! 抱くわけないだろ! 迷惑だから帰れって言ったよ。」
俺の言葉に林原の目がテンになった。その間抜け面がおかしくて笑える。
「おいおい。そんなこと、よく言えたな。」
「俺は美月を傷つけないためなら、他の誰を傷つけようが気にしない。」
「なるほどね。それで、八神さんはコピーをとりに来ないし、後輩の女の子たちに当たり散らしてるってわけか。」
八神さんが朝から俺を無視して、こっちに来ないのは気付いていた。もうこれ以上関わりを持ちたくないから、これで良かったと思う。
「だけど、おまえにコケにされて、八神さんがそのまま引っ込むとは思えないな。さっきすれ違った手塚先輩の様子が変だったのも気になる。」
「手塚先輩? 何かあったのかな?」
「村山に訊いてみるか。」
林原はすぐにスマホを出して、外回り中の村山にメールを打ち始めた。
俺は食器を返却口に返しながら、嫌な予感に胸がざわついていた。
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